旅の終わりに訪れた図書館。
雨上がりのペトリコールと特有のインクのにおいが迎え入れた。
まだ名前の無い木箱
マルシェが終わりかける入口を抜けると、目の前には積み重なった木箱が展示されている。
さらにあたりを見渡すとこの木箱は、図書館のそこかしこに置かれている。
本のディスプレイや、商品の展示台、間仕切り壁として空間をかたどっているのだ。
木箱は幅奥行400*400mmで高さが400,600,800の三種類。
そして中央には溝があり専用のジョイントを用いて好きなとこでつなげることができる。
一つ触れるだけで想像力が幾千になるまさにびっくり箱だ。
少し進んで読書をするために開かれたスペースには木の板で組まれた作品が悠然とある。
腰掛に机に遊び場にあらゆる行動に包容力を与えるそれは、さすが日本人というべきか誰にも使われていなかった。
多義的過ぎて使い手が存在を定義出来なかったのかも知れない。
ー「もしその絵が何かを語りたがっておるのであれば、絵にそのまま語らせておけばよろしい。
隠喩は隠喩のままに、暗号は暗号のままに、ザルはザルのままにしておけばよろしい。それで何の不都合があるだろうか?」(騎士団長殺し/村上春樹)ー
この木箱達を言葉でアフォードするまで、このような作品と出会うことは偶然の儘だろう。
生まれ変わった複合施設
図書館というのは生きる言葉が住まう場所であるという考えから、流行り廃りで日々移ろう言葉のために、
生きるインデックスが館内に設置されており。私たちは質量を伴って言葉を持ち帰ることができる。
建物の新しさの中にどこか図書館としての不自然さが、はたと潜んでいる。
それは、2018年。この建物は新しくなった。今、元の百貨店の影を少し残しながら図書館を中心としてカフェや子育て支援センターが入っている。
走り回る小さな子や勉強をしている学生、若者と遊ぶために来るお年寄りまで誰彼ものサードプレイスとなっていた。
「ひとりひとりの『だいじなもの』」という設計コンセプトは而してそこに生きている。
Written by Masa